月読書生猫日記

雑食オタクの色々感想文です

500年の営み

 

500年の営み (onBLUE comics)

500年の営み (onBLUE comics)

 

 

【作者】山中ヒコ
【出版社】祥伝社
【初版】2012年8月

【あらすじ】
昔から対立していた山田家と、太田家。それぞれの家に生まれた息子たちである寅雄と光は、親同士は敵対していたものの、互いに愛し合っていた。しかし、駅から転落した人を助けようとして光が死んでしまう。絶望した寅雄はビルから身を投げるが、一命をとりとめる。そして、目覚めた彼を待っていたのは、光に似た姿をしたアンドロイドと、250年経って、知っている者のいなくなった世界だった。

 

こちらは昔のブログ記事(2013年公開)から移行してきた記事です。

一部気になるところだけ簡単に文章は添削しておりますが、基本的には当時のまま掲載いたします。

今でも大好きな作品ですし、良くも悪くもがっつりした濡れ場はなくて普段BL作品を読まない私でもとても読みやすかったので、ぜひたくさんの方に読んでいただきたいです!

感想は続きからどうぞ。

↓↓↓

 

 

恋愛ジャンルにおけるロボットものやアンドロイドものって、どうしても切ない気持ちになりますよね……。
以前から気になっていた作者さんの最新刊(買った当時)だったので。
BLものって普段は読まないんですけど、これは本当に良かったです!
中盤くらいまでのネタバレをさらっと含むのでご注意を。

ロボットものにありがちな、人間は寿命があるから云々とは違う展開をしていったのが個性的だなあと。
結構恋愛ジャンルにおけるロボットものって、感情が未発達なロボットが人間に触れて感情が芽生えて、でもせっかく両想いになれたのに人間が死んじゃってっていう展開が多い気がするんです。
でもこれは逆。
人間の方が時を超えてしまうので、人間がロボット、いえアンドロイドの方を探すお話です。

アンドロイドは最初から感情豊かです。
与えられた役割(主人公の恋人)を果たさなければならないので当たり前と言えば当たり前。
でもオリジナルとは何かが違うので最初は反発しつつ、やがて、"恋人の代理品"ではなく、"アンドロイドの光"として惹かれていく様子がとても微笑ましくてですね……。
このまま幸せになっちゃいなよ!って思わず言いたくなったところに、あの展開。
でも、人間与えられたものに対して情を抱いてしまえば、理屈なんてどうでも良くなってしまうもので。

物語は大きく分けて二つのパートに分かれてます。
250年後と、250年後。合わせて500年。
ロボットに対する価値観も大きく変わっていて、その間に何があったか、思わず想像してしまいますよね。
でも主人公の感覚としては500年どころか、ほんの少しの時しか経っていないため、時間の経過の割には(ページ数的に)とてもコンパクトにまとまっている話なんですけど、とても深みのある、優しいお話です。
以下、本編既読の方向けの感想になりますので未読の方注意。

 

 

この作品で私が一押ししたいのが、ロボットの4QPです。
彼女(彼?)が"祈り"を学習して、博士に報告しにいくシーン。
これって本編には関わりのないシーンなんですけど、こういうシーンが作品を深めていくんだと思います。
とてもほっこりして、同時に切ないような気持ちにもなったりして。

この作品で私が一番気に入っているのは、何といってもハッピーエンドなところ。
天国の光には少し申し訳ないかもしれませんが、やっぱり大切なものを失ってきた寅雄だからこそ、ヒカルだけは一緒にいて欲しかったんです。
もしもこれで寅雄がヒカルに出会えていなかったら、私はこの作品の評価をもう一段階下げていたかもしれません。

そして巻末の漫画は、お世辞にも頭の回転は速くないらしいヒカルの姿に、切なさとか哀しみも感じつつも、ほっこりさせられたり。
彼は愛されキャラだと思うんです。
上手くは出来ないんだけど、だからこそ愛おしい。

全体的にとてもバランスの良い作品だったと思います。
哀しみも、喜びも、全部良い具合にブレンドされている。
そして、キャラがみんな、愛おしい。
悪人がいないんですよね。
あんなに太田家と敵対しあっていたはずの寅雄の両親が、寅雄のためにアンドロイドを残してくれたシーンとか。
みんなみんな、愛を持っているはずなのに、なんで上手くいかないんでしょう。
いなくなってから気づいたって、遅いんですよね……。
でも、あきらめなければ、戻ってくるものもあるってことですよね?

良作でした。

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これは、この記事を書いた2013年の私へ、2020年の私から追記なのですが、このブログの記事を初めて書いた時から5年以上経っても、そう思います。

これからもきっと、そう思うことでしょう。